偏光とは?偏光の特性を活かしたセロハンテープアートの不思議な世界

セロハンテープアートがカラフルに見える理由

セロハンテープを積層させたものに白色光を入射させるとさまざまな色が見えます。その理由は、セロハンテープの積層枚数によって位相差量が異なり、光の量が色(波長)によって変化するからです。

こちらの記事では、セロハンテープアートがカラフルに見える理由を、偏光の特性を基に説明していきます。

セロハンテープアートの作り方については、こちらのサイエンスデイの記事をご覧ください。

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光の特性について

光は明るさ、色、偏光の三大要素から構成されています。光は波として考えることができるので、これらの要素も波の特徴(振幅、波長、振動方向)と同じように考えることができます。つまり、明るさは波の振幅、色は波の波長、偏光は波の振動方向に置き換えることができます。

私たちは明るさと色に関しては普段から目で見ることができますが、唯一偏光だけは肉眼で識別することはできない為、直感的な把握が比較的難しく感じてしまいます。人間が偏光を感知できない理由には私達の目に秘密があります。人間の目には視細胞という神経細胞がありますが、その視細胞には錐体細胞呼ばれる色や形を認識する細胞と杆体細胞と呼ばれる明度を感知する細胞の2種類しかありません。その為、偏光という光の特徴があるにも関わらず、私たちは直接的に認識することができないのです。そこで私達は偏光板と呼ばれる特殊な素子を通して、偏光を明るさに変換し、観察しています。

偏光の種類

偏光とは、特定の方向に振動する光のみで構成されている光のことです。
偏光には、いくつかの種類があります。
・直線偏光:振動が直線的な光のこと
・円偏光:円を描きながら振動する光のこと
・楕円偏光:楕円を描きながら振動する光のこと
・ランダム偏光:特定の振動方向がない光のこと。
太陽光や蛍光灯などの光は基本的にランダム偏光です。

図1は偏光の軌道を平面的に観察した様子です。

図 1 偏光の種類 (直線偏光 円偏光 楕円偏光 ランダム偏光)

また、光の振動を動画で表すと下記のようなイメージとなります。

動画 1 直線偏光:振動が直線的な光

動画 1 右回り円偏光:円を描きながら振動する光

偏光板とは

偏光板とは偏光を作るための素子のことで、偏光子とも呼ばれています。偏光板には決まった向き(透過軸)があり、透過軸と同じ方向に振動する直線偏光だけを通します。

偏光板を2枚重ねた時では、2枚の偏光板の透過軸が同じ方向だと光は通過しますが(図2: 左)、異なる向きにすると光は透過しにくくなり、2枚の偏光板の透過軸が直交する場合では全く通りません(図2: 右)。図3は2枚の偏光板の透過軸を変えた場合を写真で撮影したものです。

図 2 直線偏光と透過軸が同じ向きの場合(左) 直線偏光と透過軸が直角の場合(右)

図 3  透過軸が平行の場合

透過軸が直角の場合

透過軸が45度の場合

前述の通り、偏光板に光が通ることによって、直線偏光を作り出すことができます。

その他にも円偏光や楕円偏光といった偏光状態が存在します。セロハンテープなど身の回りにある材料を通過した光の偏光のほとんどは楕円偏光です。一方で直線偏光と円偏光は偏光板などの素子を使わないと作ることが難しいです。

これはそれぞれの偏光状態が生じるための条件が異なるためです。下の図4は、偏光状態を表現したものの一部で、赤い線状が直線偏光、中心が円偏光、赤い円の内部が楕円偏光を表しています。例えばダーツをイメージしてください。セロハンテープなどを光が通過するということは矢を1本、下図のようなターゲットに投げるのと同じです。矢がちょうど真ん中に刺さった場合は円偏光、赤い線上に刺されば直線偏光、それ以外はすべて楕円偏光です。直線偏光や円偏光にするにはしっかりと狙わないといけないことがイメージできるでしょうか?

 

図 4 偏光状態の表現の一部

ヨコの波とタテの波の重ね合わせ

図1で示した様々な偏光は、ヨコに振動する波とタテに振動する波を重ね合わせることで表すことができます。言い換えれば、縦方向の直線偏光と横方向の直線偏光の二つの組み合わせですべての偏光状態を表現できます。動画2、3はそのイメージです。

では、二つの直線偏光の何を変えることで様々な偏光状態を表すことができるのでしょうか。その答えは、「振幅」と「位相差」です。位相差は二つの直線偏光の山と山(あるいは谷と谷)のズレ量に相当します。この振幅と位相差を変えることで円偏光や楕円偏光などを表現できます。偏光板などの素子やセロハンテープなどの材料は、この横と縦方向の直線偏光の振幅や位相差を変える働きをする、と言うことができます。

動画2  直線偏光(緑:合成した波、 青:縦方向に振動する波、 赤:横方向に振動する波)

動画3 右回り円偏光(緑:合成した波、青:縦方向に振動する波、赤:横方向に振動する波)

複屈折材料

多くのプラスティック材料(高分子材料)は複屈折性を示します。複屈折性とは光の振動方向(偏光)によって、屈折率が異なることを言います(光の入射方向によって屈折率が異なることも複屈折性と言います)。屈折率は光の通りやすさで、屈折率の大きい物質ほど光が通り抜けるのに時間がかかります。また、偏光状態を特徴付ける位相差δは、複屈折と光が通過した距離(材料の厚さ)を使った以下の式で表すことができます。

位相差δ=複屈折Δn×材料の厚みd

図 5 ランダム偏光を直線偏光子と複屈折材料に通した時の様子

例として、図5のようにランダム偏光を偏光板(直線偏光子)に通すと、光の偏光状態は直線偏光になります。そして、その直線偏光をセロハンテープなどの複屈折材料に通すと、新たな偏光状態になります。

動画4 セロハンテープなどの複屈折材料に直線偏光を入れた様子

以上のことを理解していくと、セロハンテープがカラフルに見える理由が分かるかもしれません。ここではイメージしやすくする為、色(波長)の異なる2つの波を使って考えてみましょう。下の図6も参考にしてください。

今回は赤(600nm)と青(300 nm)で考えます。また、それぞれの波を横方向に振動するヨコ波と縦方向に振動するタテ波に分解して考えていきます(詳しくはヨコの波とタテの波の組み合わせをご参照ください)。光が通過する複屈折性材料は、色(波長)によって屈折率は変わらないと仮定します(赤色と青色ともに縦方向の振動に対して屈折率が1、横方向の振動に対して屈折率が2の材料としましょう)。

前述のとおり、光の振動方向によって屈折率が異なる材料のことを複屈折性材料と呼びます。この材料に光が通過した場合を考えていきます。分解した光のタテ波とヨコ波では、同じ時間でも進む距離にズレが生じます(タテ波の方の屈折率がヨコ波に比べて小さいので速く進みます)。

また、タテ波の山とヨコ波の山のズレ量を位相差と言い、図6では棒人間の進み具合で、位相差を表現しています。例えば、複屈折性材料の中を光が通過して、通過後の位相差が300 nmになったときの偏光状態を考えてみましょう。赤色・青色ともに材料を通過した後の位相差は同じ300 nmです。この時の位相差300 nmという値は色(波長)によって意味合いが変わってきます。なぜなら、300 nmの位相差があるということは、赤ではタテに対してヨコは1/2波長遅れており、青では1波長分遅れていることになります。

つまり、複屈折性材料を通過した後の偏光状態が色(波長)によって異なります(光の偏光状態は位相差と振幅によって表現できることを思い出してください)。人間は光の偏光状態を直接目でみて認識することはできません。そこで、最後に偏光板(直線偏光子)に光を透過させることで透過後の光の明るさ(強度)が色によって異なります。このため偏光板を通過した後の光を観察することで三色の重ね合わせを認識することができ、カラフルに見えます。

セロハンテープの積層枚数によってさまざまな色が見える理由として、位相差が大きいほど波長(色)による偏光状態が大きく異なり、したがって、偏光板を通過した後の光の明るさが色によって大きく変化するというわけです。

実際に、複屈折材料を通した時に、タテ波とヨコ波がどのようにズレていくのか、動画5によって観察してみてください。下の動画は縦方向の屈折率は空気と同じ、横方向の屈折率が非常に高い場合の条件を示しています。

屈折率が縦方向と横方向で異なるとそれぞれ分解した波のスピードが変わり、位相差が生じて偏光状態が変化しているのが分かると思います。

図6 棒人間で位相差を表した時の様子

動画5  複屈折材料(縦と横とで屈折率が異なる材料)を透過し、位相差が発生する様子

 

まとめ

セロハンテープを積層させたものに白色光を入射させるとさまざまな色が見える理由は、セロハンテープの積層枚数によって位相差量が異なることで2枚目の偏光板を通過した後の光の量が色(波長)によって変化するためです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

当社ではこの光の特性を応用して、複屈折を評価する装置を製造、販売しています。その技術についてより詳しい記事はご覧になりたい方はこちらをご覧ください。複屈折についての全4回の記事です。

複屈折とは?複屈折測定の基本(1/4)

 

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