レオメータ×偏光ハイスピードカメラでグリースの「見えない変化」を可視化する
グリースとは
グリースは、潤滑剤として広く使われている半固体の材料です。自動車や産業機械の軸受部など、金属同士が接触しながら動く箇所で、摩擦や摩耗を防ぐ役割を担います。また、グリースは固体と液体の中間のような性質を持ちます。つまり、流動性がありながらも元の形を保つことができるという、いわゆる“ソフトマター”の一種です。

レオメータによるグリースの性能評価
ユニークな性質を持つグリースの性能を評価するために用いられるのが「レオメータ」です。レオメータは、材料に力を加えたときの“変形のしやすさ”や“流れ方”を測定する装置で、グリースのような粘弾性体に対して非常に有効です。実際に、せん断速度や温度変化による粘度の変化や構造の破壊や再構築の挙動などを定量的に把握することができます。

Rheo-Irisによるグリースの物性と構造の同時評価によるメリット
しかし、レオメータによる物性評価だけでは、「なぜそのような物性変化が起きているのか?」という問いに対して、内部構造の視点から直接的な答えを得ることは困難です。特にグリースのように、ベースオイル、増ちょう剤、添加剤などから形成される複雑な多相系材料では、物性変化の背後にあるミクロな構造変化を捉えることが、材料開発や品質管理の観点から極めて重要です。
Rheo-Irisは、レオメータに偏光ハイスピードカメラを組み合わせたシステムで、グリースに加わる力とそのときの内部構造の変化を、動的かつ二次元的に観察することができます。

これにより、例えば増ちょう剤ネットワークの破壊過程や再形成の様子、ベースオイルの分離挙動、配向構造の発現など、従来の測定では“ブラックボックス”だった部分を可視化し、物性変化との因果関係を明らかにすることができます。グリースの見えない“中身”に迫ることで、より高度な材料設計やトラブルシューティングが可能になります。その一例として、実際のグリースを対象とした計測事例をご紹介します。
ひずみ分散試験と偏光イメージング
今回の計測では、市販されているグリースを2種類(汎用グリースと高価な分野特化タイプのグリース)を対象としました。汎用グリースは増ちょう剤としてリチウム石けん基を採用したタイプで、分野特化タイプのグリースの詳細については不明でした。本計測では、一定の周波数で振動せん断を加えながら、ひずみ振幅を徐々に大きくし、あるひずみに達したあとは逆に小さくするという条件に基づき、材料の粘弾性応答と構造変化の関係性を調べました。
汎用グリース
分野特化タイプのグリース
レオロジー評価:粘弾性のヒステリシス
レオメータによる測定では、貯蔵弾性率および損失弾性率を計測し、ひずみに対する応答を観察しました。その結果、以下のような挙動が明らかになりました。
- ひずみを増加させる過程では、貯蔵弾性率および損失弾性率ともに低下しました。
- 一方、ひずみを減少させる過程では、貯蔵弾性率および損失弾性率ともに、初期状態と異なる値を示し、明確なヒステリシスが確認されました。なお、分野特化タイプのグリーでは、ひずみが1付近で一度両者の値が減少するような挙動が観測されました。
偏光イメージング:内部構造変化の動的観察
偏光ハイスピードカメラを用いた観察では、二次元的な複屈折および主軸方位の変化を動的に取得しました。
- 汎用グリースは明確な複屈折分布が観測されましたが、分野特化タイプのグリースは明確な複屈折分布の変化は観測されませんでした。これは、今回用いた光の波長(543 nm)に対して、汎用グリースとは異なり非常に大きな構造も形成していることを示唆します。
- 汎用グリースにおいて、ひずみを増加させる過程では、ひずみの増加とともに複屈折の値も増加します。しかしながら、ひずみが1付近になると複屈折は急激に低下しました。さらにひずみが増加していくと再び複屈折の値は増加しました。これは、増ちょう剤ネットワークの崩壊と再形成を反映していると考えられます。同時に、主軸方位が半径方向から流動方向へと変化する領域が出現し、構造の劇的な再構築(あるいは別の構造へと変化)を示唆する結果が得られました。
- ひずみを減少させる過程では、複屈折の減少と増加および主軸方位の変化が再び観測されました。一方、さらにひずみを小さくしていくと、複屈折は高いレベルを維持し、試験開始時とは異なる空間分布を呈しました。これは再構築された構造が元の状態とは異なる「履歴依存性」を持っていることを意味します。
このように、Rheo-Irisによる計測を行うことで、「物性値の変化が何に由来しているのか」を構造レベルで理解することが可能となり、より本質的な材料評価や設計につながります。
今後の応用と展望
グリースに限らず、ミクロ構造が物性に大きな影響を与えるソフトマター材料全般に対して、本システムは有効です。特に、履歴依存性、非線形応答、構造遷移といった複雑な挙動を持つ材料に対し、数値だけでなく「構造の動き」として理解するアプローチは、今後ますます重要になっていくと考えられます。
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